ベトナムの現地法人にはどのような会社形態がありますか。
一人有限責任会社、二人以上有限責任会社、株式会社、合名会社などが挙げられます。それぞれ責任限度や出資者の数、機関構造に違いがみられます。
概要
ベトナムの現地法人に関する主な法令に企業法(68/2014/QH13)があり、有限責任の性格を持つ有限責任会社(法47条及び73条)及び株式会社(110条)の他、無限責任である合名会社(172条、ただし出資社員を除く。)及び私人企業(183条)が企業の種類として定められています(1条)。現地法人設立において、ほとんどのケースが有限責任である有限責任会社又は株式会社であるため、これに絞って説明します。
ベトナムの有限責任会社は、その出資者が1人か2人以上かで制度上区別されており、日本の合同会社とは異なるため注意が必要です。また、株式会社においても出資者を3名以上必要とするなど、日本会社法と異なる点が存在しています。
企業の種類/出資者数 | 1人 | 2人 | 3人~50人 | 51人~ |
---|---|---|---|---|
一人有限責任会社 | 〇 | × | ||
二人以上有限責任会社 | × | 〇 | ×企業法47条1項a) | |
株式会社 | ×企業法111条1項b) | 〇 |
このため、いわゆるジョイントベンチャー(JV)の手法にて設立する場合は必然的に二人以上有限責任会社か株式会社の形態を選択することとなり、100%独資で設立する場合は、一人有限責任会社とする場合が多いことになります。
有限責任会社
有限責任会社は、単独出資者による一人有限責任会社(73条)と出資者が2人以上50人以下の二人以上有限責任会社(47条)からなります。
二人以上有限責任会社の機関構成は、出資者からなる社員総会、社員総会の招集や議事次第等の作成などに関する権利義務を有する社員総会の会長、会社の日常的経営活動を運営する権利義務主体である社長からなります(55条)。出資者が11人以上である場合には、さらに必要的に監査役会を設置しなければなりません(同条)。また、企業取引から生じる各権利義務等の行使者である法定代表者(13条1項)を任命する必要がありますが、社長を法定代表者として任命する場合が多いと思われます。法定代表者を任命する場合、企業は、少なくとも1人のベトナムに居住する法定代表者を常時確保しなければならず、法定代表者がベトナムから出国する場合は法定代表者の権利義務の履行に関する委任を書面により行わなければなりません(13条3項)。併せて、二人以上有限責任会社の方法により現地法人を設立する場合は、普通決議であっても資本金の65%の定足数と65%の出席社員持分総額が決議要件となります(59条1項、60条3項a))。なお、定足数を満たせない場合、例外として、第一回の社員総会の開催予定日から15日以内に再度第二回目となる社員総会を招集することで、定足数を50%にまでできることが法定されています(59条2項a))。他方で、利益相反取引における承認時には、例外として、総資本金額の65%以上の決議が必要となります(67条2項)。
これに対して、一人有限責任会社の機関構成は、会社の会長、社長及び監査役による場合(78条1項a))と社員総会、社長及び監査役(78条1項b))による場合とが認められており、監査役が必須設置機関となっています。なお、一人有限責任会社において、社員総会を機関の一つとする設計を採用する場合における社員総会は、出資者より任命された3人以上7人以下の構成員からなり、かつ、二人以上有限責任会社と異なり、出資者でない者も構成員となる点に注意が必要です。また、この場合の社員総会は、3分の2の出席かつ過半数の決議により普通決議を行うことができますが、定足数に満たない場合に定足数を引き下げる定めが置かれていない点に特徴があります。なお、社員総会に関する議事の進行等は社員総会の会長により行われ、この点は二人以上有限責任会社と同様です。
株式会社
株式会社の運営は専ら企業法に定めが置かれていますが、株券公募やいわゆる上場会社においては更に証券法(70/2006/QH11)における公開会社(同法25条1項)として別途証券法上の規制を受けることとなります。日本会社法における譲渡制限の有無により公開会社、非公開会社を区別するものではない点に注意が必要です。本稿は、公開会社に該当しない場合を想定して記載しています。
株式会社の機関構成は、株主総会、取締役会、監査役会及び社長による場合で、監査役会の設置が一定の場合には任意である場合と、これに監査役会を含まないものの、取締役の20%が独立取締役であり、取締役会に直属する内部会計監査委員会を設置する場合があります(134条1項)。なお、監査役会の設置が任意となるのは、株主数が11人以下かつ各株主の株式保有率が50%未満である場合となっています。
取締役会の構成員である取締役の人数は3人以上11人以下であり、取締役会における具体的な取締役の数は定款で定めることとなります(150条1項)。また、原則として取締役会の中から1人の取締役を取締役会の会長に選任することとなっており、会長は取締役会の進行に関する権利義務を有します(152条1項、3項)。これに対して、会社の日常的な経営業務を運営する者である社長は、取締役の中又は外部からの雇用として任命する必要があります(157条1項・2項)。会社の法定代表者が1人である場合、取締役会の会長と社長のうちいずれかが当該会社の法定代表者となり、定款で特段の定めを置かなければ取締役会の会長が法定代表者としての地位を取得することになります。2人以上の法定代表者を置く場合は、双方が法定代表者としての地位を取得します(134条2項)。なお、この法定代表者となる場合、有限責任会社の場合と同様、ベトナム国内居住が必要となり、出国時には書面による代理人選任をしなければなりません。
監査役会は3人以上5人以下の構成員より構成され、更に多数決により監査役会の長を選任しなければなりません。この監査役会の長は、会計士又は会計監査官である必要があります。また、監査役の過半数はベトナム常駐者である必要があります(163条1項・2項)。