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コラム

COLUMN

退職者による秘密漏洩の防止策

コンプライアンス・内部統制

2022.05.24

執筆者:弁護士 山腰健一

 近年、退職者による企業の秘密漏洩事案に関する報道が相次いでいます(ソフトバンク元従業員が転職先の楽天モバイルに「5G」技術に関する情報を持ち出したとして逮捕・起訴された事案等)。

  実際、昨年3月に情報処理推進機構(IPA)が発表した調査報告書によれば、営業秘密の漏洩ルートの中で最も多かったのは「中途退職者(役員・正規社員)による漏えい」(36.3%)だったようです。

 企業の情報漏洩対策については、経済産業省が公表する『秘密情報の保護ハンドブック ~企業価値向上にむけて~』で詳しくまとめられており、参考になりますので、以下その概要資料を抜粋してご紹介します。

(経済産業省『【概要版】秘密情報の保護ハンドブック ~企業価値向上にむけて~』(https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/1706blueppt.pdf)より引用)

 ただし、全ての秘密情報に対して一律に厳格な対策を実施することは、かえって業務上の円滑な利用を阻害し、また必要以上にコストをかけてしまうことにもなりかねませんので、
①誰がその情報を保有しているのか、
②その情報が漏洩することで会社にどのような影響が及ぶのか、
③その対策を講じることでどの程度漏洩を防ぐことができるのか、
④その対策を講じることで業務上の円滑な利用にどの程度支障を来すか、
⑤その対策を講じるために要するコスト等を勘案して、合理的かつ効果的な対策を適切に取捨選択して実施することが重要です。

  この点、④⑤の観点から比較的容易に実施可能な対策としては、「㊙」等の秘密表示を付したり、当該情報を業務上利用する者だけで共有するパスワードをかけておく等の対策が考えられますが、これらは、漏洩の予防に一定の効果を発揮すると同時に、漏洩が発生した場合の事後的な対応として、民事上の損害賠償請求や刑事告訴等を行う局面においても、当該情報が不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されるために重要な措置となりますので、優先度の高い対策といえます。

  また、入社時・退社時等における誓約書や就業規則等で秘密保持義務を課しておくといった対策もまた、比較的容易に実施可能な対策ですが、その際、特に重要な情報に接する可能性のある従業員については、退職後一定期間の競業避止義務を課しておくことも、情報漏洩を実効的に防止する上で有用です。

  そして、これらの普段からの対策に加えて、特に退職予定者が利用していた情報については、前記のとおり漏洩の危険性が高く、しかも競合他社が漏洩先となるおそれがありますので、従業員等から退職の申出があれば速やかに社内情報へのアクセス権限を制限又は削除するとともに、退職申出前後のメールやPCのログを集中的にチェックする等、厳格な対策に切り替えて実施することも未然に漏洩を防止する上では重要となります。

 秘密情報は、業種や規模にかかわらずどんな企業であっても保有している重要な知的財産ですので、意識的に対策を取られてこなかった企業様におかれましては、この機会に社内の情報管理体制を見直されることをお勧めいたします。

  なお、MEILINチャンネルでも「【1000億円訴訟】 営業秘密の守り方を考える」と題して本稿に関連する話題を取り上げておりますので、是非ご覧いただけますと幸いです。https://www.meilin-law.jp/meilin-channel/video/index.php

(2021年12月執筆)

  • 東京、福岡、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、ハノイの世界7拠点から、各分野の専門の弁護士や弁理士が、企業法務や投資に役立つ情報をお届けしています。
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