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コラム

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Uber Eats 配達員を「労働者」と認めた東京都労働委員会の命令について

人事労務

2024.01.24

執筆者:弁護士 柏田剛介

1 アプリで注文すると好きなお店の料理を届けてくれる「Uber Eats」はコロナ禍で利用者が広がり、アプリを使わない人でも、自転車に乗ったUber の配達員を見かけることは多いのではないかと思います。Uber の配達員は、所定の手続きを経て登録すると、自分の好きな時間にアプリから配達業務を受注することができ、業務を遂行するとその対価を得られます。業務を引き受けるか否かは自由であり、場所的時間的拘束下で会社に勤務する一般的な労働者とは違った働き方ですが、他方で、それを生活の糧にしている配達員の方も多くいます。

2 そんなUber 配達員が、2019 年10 月に労働組合を結成し、運営会社に対し、配達中に事故があった場合の補償や、報酬の決め方の透明性などについて団体交渉を申し入れました。しかし、運営会社が団体交渉を拒否したため、労働組合側は、2020 年3 月、東京都労働委員会(都労委)に、運営会社の行為が不当労働行為であるとして、救済申立てを行いました。2022 年11 月、都労委は、運営会社の行為は不当労働行為であると判断し、運営会社に団体交渉に応じるよう命じました。

3 労働者には、労働組合を結成して労働条件改善のために使用者と団体交渉をする権利が、憲法により保障されています(憲法28 条)。もっとも、Uber Eats の配達員のようにいわゆるプラットフォームを利用する働き方は、多くの場合、働く時間や場所を拘束されることがなく、そもそも「労働者」には該当しないようにも思えます。運営会社側はこの点を指摘し、配達員は運営会社の指揮命令下にはないとして、配達員の「労働者性」を争いました。

4 都労委は、労働組合の申立てに対して、配達員の認識として、配達リクエストを拒否しづらい状況に置かれることがあったこと、配達員に対する評価制度やアカウント停止措置があるため、会社が定める業務手順や配達経路に反した方法で業務を遂行することはできなかったことなどから、配達員は、「広い意味での会社の指揮命令」下にあったと認定し、配達員の労働者性を認め、運営会社に対して団体交渉に応ずるよう命じました。アプリなどを通じて個人で働く配達員の団体交渉について判断が示されるのは初めてのことであり、大いに注目されています。

5 運営会社は、都労委のこの命令は不当だとして、再審査を申し立ており、今後、都労委の判断が覆される可能性もあります。
 もっとも、インターネットのプラットフォームを介して仕事を引き受けるという働き方はますます普及しています。国際的にも、例えばEU が一定の場合に労働者性を認める法案を公表するなど、その保護へ向けた取り組みが始まりつつあります。国内でも、フリーランス保護のためのフリーランス・事業者間取引適正化等法が今年5 月に施行されました。
 本件の最終的な結論に関わらず、今後も、プラットフォームワーカーやフリーランスに関連する社会情勢の変化には注目しておく必要がありそうです。

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