コラム

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ベトナム外形企業における報告義務の履行と実務

国際ビジネス

2025.07.02

執筆者:弁護士 原智輝

 ベトナムに進出する日本企業が増加している中、現地法人の設立に伴う投資活動には多くの報告義務が存在します。この報告義務は、投資法や労働法に基づいており、ベトナム政府が企業の活動状況を把握し、適切に管理するために欠かせないものです。特に、日本企業にとって、これらの義務を果たすことは単なる法令遵守に留まらず、企業としてのコンプライアンスの一環として重要な意味を持ちます。

 たとえば、投資活動の進捗状況については、「投資登録証明書(IRC)」に基づいて定期的な報告が求められます。これは、ベトナム政府が企業の投資活動の状況を把握し、必要な監督や支援を行うための重要な手段です。報告には、通達第03/2021/TT-BKHDT 号で定められた様式A.III.1 やA.III.2、そして通達第05/2023/TT-BKHDT 号の様式13・17 が用いられ、企業はこれらの様式に沿ってベトナムでの活動内容を逐一報告することが義務付けられています。

 また、企業には、投資活動に限らず、労務関連の報告義務も課せられています。外国人労働者の使用状況、安全衛生管理、失業保険の加入状況など、多岐にわたる報告が求められ、企業はそれぞれ半年や年次での報告を行わなければなりません。こうした労務報告は、労働者の安全と健康を守るためのものであり、ベトナム政府の労働法に基づいた重要な義務です。

 日系企業がこのような報告義務を円滑に進めるためには、報告期限が近づいた際に必要な情報を整理し、期限通りに対応するための仕組み作りが重要です。特に親会社がある場合、子会社のコンプライアンス監督という観点からも、定期的に報告の履行状況をチェックし、必要に応じてサポートする体制を整えることが求められます。これによって、単に罰則を回避するだけでなく、会社全体の透明性や組織的な一貫性が保たれ、さらなる成長への基盤の構築に繋がります。

 実際に報告義務を怠った場合、罰則が科されることはありますが、その内容は比較的軽微です。しかし、報告義務を着実に履行していくことによって、企業が保持する投資登録証明書(IRC)や企業登録証明書(ERC)の管理や記載内容の変更手続きにも良い影響が生まれます。定期的な報告は、情報の一元化を図るための手段としても有効であり、これによって企業は、経営上の安定を確保すると同時に、組織運営の効率化を図ることができます。

 さらに、ベトナムに進出したばかりの企業や、数年ごとに現地法人のトップが交代する企業にとっては、この報告体制を通じて組織構成の透明性を確保し、情報の一貫性を保つことが特に重要です。このような情報管理の一元化は、将来の事業売却や組織の再編においても役立つものであり、長期的な視点での企業価値向上に貢献します。

 総じて、ベトナムでの報告義務の履行は、企業にとってのコンプライアンスを強化し、事業運営を安定させるための重要な要素であり、今後の成長やリスク管理の基盤を築く上で欠かせない取り組みといえます。

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