執筆者:弁護士 辻 陽加里
1.事件の概要
小林製薬が製造・販売する「紅麹」を含むサプリメントの摂取者に腎障害などの健康被害が報告され、小林製薬は紅麹を含むサプリメントの自主回収を発表しました(以下、「本件」といいます。)。健康被害の報告を受けてから公表まで約2 ヶ月かかったことなど、小林製薬の対応の遅さが批判されています。
小林製薬は本件に関し、事実検証委員会の調査報告書と取締役会の総括を公表し、この不祥事の原因として、小林製薬の安全管理意識の不十分さや、危機管理において適切な経営判断がされなかったことなどを挙げていますが、本コラムでは社外取締役に焦点を当てて本件を取り上げます。
2.本件と社外取締役
小林製薬には、当時、社内取締役3 名の他に社外取締役が4名いましたが、2024 年1 月中旬に健康被害の報告がされてから、社外取締役に報告がされたのは同年3 月20日の夜、本件の公表日のわずか2 日前でした。これに先立つ同月4 日、定例の社内会議において、常勤監査役から、本件を例に挙げ、重大リスクにつながりうる情報については社外取締役にも共有すべきとの問題提起がされたものの、本件について社外取締役への報告はされませんでした。また、それより以前の同年2 月16 日、社外取締役の1 人に対し、本件について言及したレポートがメール送信されましたが、このメールが開封されたのは同年3 月21 日でした。そして、同月20 日になってようやく本件製品の回収と公表、行政報告の方針は決まったことなどが、社外取締役に報告されました。
この経緯からすれば、残念ながら本件に関して社外取締役は全く機能していなかったと言わざるを得ません。
3.社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)
本件において、社内から社外取締役に適宜に情報共有されていなかったことは大きな問題ですが、社外取締役は受け身でよいのでしょうか?
この点、経済産業省が公表する「社外取締役の在り方に関する実務指針(2020年7月20日)」(以下、「ガイドライン」といいます。)は、取締役会で建設的な議論を行うための情報共有や事前準備の取組を行うべきであるとし、監査役との情報共有の仕組みの構築が有意義であると指摘しています(ガイドライン・2.3.5)。本件において、常勤監査役は2 月13 日本件について情報を得ており、もし、社外取締役と監査役との情報共有がされていれば、より早期に社外取締役が判断に関わることができた可能性があります。
また、ガイドラインは、社外取締役は能動的に情報を入手すべきとし、「会社から提供される情報にとどまらず、必要な情報は自ら積極的に情報を取りに行く姿勢が求められる。そのためにも、日頃から社内外に非公式の情報ネットワーク・人的ネットワークを作っておくことが重要である。」としています。
4.まとめ
本件は、社外取締役が機能するためには、社外の目を維持しつつも、自ら社内と積極的にコミュニケ―ションを図り、タイムリーに情報を得る取組が必要になることを示唆しています。
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