執筆者:弁理士 下井功介
スタートアップ企業にとって有益な知財・無形資産に関する情報が特許庁から公開されました。
このコラムは、スタートアップ企業にとって有益な知財・無形資産に関するガイドブック『企業成長の道筋~投資家との対話の質を高める知財・無形資産の開示~1』を紹介するものです。
1.該ガイドブックの概要と背景
2025年4月28日、特許庁は『企業成長の道筋~投資家との対話の質を高める知財・無形資産の開示~』と題したガイドブックを発行しました。このガイドブックは、企業が知的財産(知財)や無形資産をどのように開示し、投資家との建設的な対話を進めるかについての指針を提供しています。背景には、コーポレートガバナンス・コードの改訂2や、知財・無形資産ガバナンスガイドラインVer.2.0の策定3など、企業と投資家との間で中長期的な視点に立った対話の重要性が高まっていることがあります。
特に、企業と投資家の間で知財・無形資産に対する視点のギャップが存在し、それが建設的な対話の障壁となっていることが指摘されています。このガイドブックでは、そのギャップを解消するためのマインドセットや方法を、実際の企業の事例や投資家へのヒアリング結果とともに紹介しています。
2.該ガイドブックのスタートアップ企業にとっての意義
スタートアップ企業にとって、知財や無形資産は競争優位性を確立し、投資家からの信頼を得るための重要な要素です。しかし、これらの資産は目に見えにくく、その価値をどのように伝えるかが課題となります。
このガイドブックでは、企業が成長ビジョンを明確にし、それを支えるビジネスモデルや強みを具体的に説明することの重要性が強調されています。例えば、新規事業が自社のミッションにどう貢献するのか、市場でどの程度必要とされているのか、なぜ自社が選ばれるのか(差別化要素)、進捗状況はどうか、全社的な成長につなげる方法は何か、などの観点から説明することが求められます。
また、企業と投資家の間での視点のギャップを解消するためには、経営戦略を描く担当者と本質的な強みを知る担当者が連携し、事業や技術の意義について部門を横断して議論することが重要です。
3.該ガイドブックのスタートアップ企業への活用提案
スタートアップ企業にとって、このガイドブックの活用は、投資家との対話を深化させ、企業価値を高めるための有効な手段となります。具体的には、このガイドブックに掲載されている情報、特にチェックリスト(図1参照)、を用いて、自社の知財・無形資産の開示状況を評価し、改善点を明確にすることができます。また、事例やコラムを参考に、自社の強みや成長戦略をどのように伝えるかのヒントを得ることができます。

このガイドブックは、あらゆるステージのスタートアップ企業にとって有益な情報であると思いますが、スタートアップ企業が向き合う課題は、時々刻々と変化するものであると思いますので、一度だけでなく、必要に応じて何度も読み返すことも重要かもしれません。
<出典一覧>
- 特許庁、『企業成長の道筋~投資家との対話の質を高める知財・無形資産の開示~』、2025年4月28日公開
https://www.jpo.go.jp/support/example/document/ip_disclosure_for_stakeholder/all.pdf ↩︎ - 株式会社東京証券取引所、『コーポレートガバナンス・コード』(2021年6月版)、
2021年6月11日公開
https://www.jpx.co.jp/news/1020/nlsgeu000005ln9r-att/nlsgeu000005lne9.pdf ↩︎ - 内閣府知的財産戦略推進事務局、『「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」Ver.2.0』、2023年3月27日公開
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/pdf/v2_shiryo1.pdf ↩︎ - 特許庁、『企業成長の道筋~投資家との対話の質を高める知財・無形資産の開示~』(P87参照)、2025年4月28日公開
https://www.jpo.go.jp/support/example/document/ip_disclosure_for_stakeholder/all.pdf ↩︎
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