執筆者:弁護士 井福貴文
令和8年(2026年)1月1日から、従来の下請法を改正・改称した「中小受託取引適正化法(取適法)」が施行されました。今回の改正における実務上の重要な変更点の一つが、これまでの「資本金基準」による法適用の判定を補完する新たな物差しとして、「従業員基準」が導入されたことです。これにより、それまでは法の適用対象外であった「資本金は少ないが、従業員の多い企業」が発注側(委託事業者)としての各種義務を負うことになる可能性があります。
では、事業者としては、この「従業員基準」の導入に伴って、具体的にどのような対応を進めるべきでしょうか。
1.自社の「立ち位置」を判定
すべての事業者においてまず、自社の立ち位置を確認する必要があります。
自社の属性を判定する際には、取引の内容に応じて、異なる基準値が適用される点に注意が必要です。取引の内容に応じ、「常時使用する従業員の数」(以下、単に「従業員数」といいます。)として、「300人」又は「100人」が基準となります。
この「常時使用する従業員」には、正社員だけでなく、契約社員やパート、アルバイト、さらには1か月を超えて継続して使用される日雇い労働者も含まれます(他方、派遣社員は派遣元に雇用されているため、派遣先となる事業者側ではカウントに含めません)。そして、この従業員数は、労働基準法に基づき作成される「賃金台帳」に記載された人数を基に算出することになります。
2.取引先の状況を確認する「仕組み」作り
自社が委託事業者に該当する場合、次に重要となるのは、受託者となる取引先が、取適法の保護対象である「中小受託事業者」に該当するかどうかを正確に把握することです。
取適法上、委託事業者に対して、受託者となる取引先の従業員数を確認することが法的に義務づけられているわけではありませんが、取引先が「中小受託事業者」であるかを判別するためには、従業員数を確認することは不可欠です。
実務的な対応としては、新規の取引先登録時に従業員数を申告してもらう仕組みを導入したり、既存の取引先に対しても年度更新時などに定期的な確認を行ったりすることが推奨されます。特に、従業員数が300人や100人の基準の境界線付近にある企業については、状況が変動しやすいため、より注意深い確認が求められます。
なお、もし委託事業者が、取引先から従業員数に関して誤った回答を得て、それを信じて取適法が適用されないものと誤認して取引を行い、取適法に抵触することとなった場合は、所轄官庁からの指導や助言の対象になり得ます。そのため、受託者となる事業者においても、委託事業者や業界全体からの信用・信頼を維持する観点から、自社の規模を正確に把握しておく必要があります。
3.判定のタイミング
また、従業員数は日々変動するため、判定のタイミングも重要です。
取適法の適用の有無は、原則として「発注した時点」の従業員数で判定します。前述のとおり、特に、従業員数が300人や100人の基準の境界線付近にある企業については、より注意深い確認が求められます。
なお、この点に関して、本法を所管する公正取引委員会によれば、
当月(N月)に委託を行う場合、中小受託事業者が、前々月(N-2月)に賃金を支払った労働者の数を、前月(N-1月)末までに賃金台帳を調製した上で把握し、その数を委託事業者に回答するなどして、前々月(N-2月)の数を委託事業者が把握可能であるときは、当月(N月)の委託における従業員数として取扱うことができる
とされています(※)。
以上のように、取適法の対応にあたっては、自社の従業員数と主要な取引先の規模を棚卸し、それに応じた処理を行うフローを確立することが重要となります。
改正法が施行されたこのタイミングを、社内フローを今一度見直す機会として捉え、対応を進めていくことが望まれます。
※公正取引委員会HP「取適法施行に当たり事業者の皆様に御留意いただきたい事項」参照
https://www.jftc.go.jp/toriteki/toriteki_ryuijiko/
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