コラム

COLUMN

プラットフォーマーが負う模倣品の排除義務

企業経営・販売・広告

2025.06.09

執筆者:弁護士 堀田明希

1.被疑侵害品を発見した場合の対応

 従前は、被疑侵害品を発見した場合①ECサイトで被疑侵害品を販売している事業者への警告や訴訟提起、②ECサイトに対し知的財産権が侵害されているので出品を停止してほしい旨の申告を行う以外の効果的な選択肢 1 はありませんでした。

 ①を選択した場合、販売停止は実現できたとしても被疑侵害品を販売している事業者は資力が乏しいことも多く、十分な損害賠償を勝ち取ることは難しいケースも相当数あります。

 また、②を選択した場合でも、プラットフォーマーが対応を懈怠している場合や十分な調査を怠る場合が散見されましたが、プラットフォーマーに苦情を申し入れると担当者の心証を害しその後の販売活動が冷遇されるというリスクもあったため、プラットフォーマーへの申し入れを避ける事業者も一定数いました。

2.プラットフォーマーの責任

 2025年4月25日、東京地方裁判所でEC大手アマゾンジャパンを被告とする裁判の判決が言い渡されました。

 原告らが販売する商品の偽造品が出品され、その旨アマゾンジャパンに申告したにも関わらず、原告らの商品が販売されているウェブページも含めすべて削除し、その後も対応しなかったことで損害を被ったとする訴えでした。裁判所は原告らの訴えを一部認め、アマゾンジャパンに対し3500万円の支払いを命じる判決を言い渡しました(報道によれば、アマゾンジャパンは控訴しています。)。

 判決は長文であるため概略のみお伝えすると、裁判所はアマゾンジャパンについて、「被告は、このような構造下(執筆者注:手数料を収受すること、実物を展示して販売する店舗と異なり不正出品が容易であること)にあるオンラインストア・プラットフォームへの出品サービスを提供し、出品者からその対価を収受するのであるから、出品者の適正な販売機会を確保するために、これを阻害する不正な出品を監視し、取り締まるなど、不正行為への対応を行う義務を、本件契約上の義務として出品者に対して負う」としました。そのうえで、原告らからの申告について調査することや、調査を行ったうえで原告らの商品以外の商品を削除 2 するという対応を取らず、原告らが販売する商品も含め商品ページをすべて削除したことが義務違反であると認定しました。なお、原告ら自身では規約の関係で対応が難しいという事情もアマゾンジャパンに義務を課す一事情として斟酌されています。

 アマゾンジャパンは、実に年間250万件の苦情、問い合わせが寄せられているため、アマゾンジャパンが設定した申告方式による申告でないと認知できないという趣旨の反論も行いましたが、当該申告方式が周知でなかった等の理由から排斥されています。

 ところで、アマゾンジャパンの規約には、当時「本契約に関して出品者又は出品者の関連会社が行った投資の補償、回収又は賠償の費用、ならびに本契約に起因又は関連する利益、収入、事業もしくはデータの損失又は懲罰的もしくは間接的損害」に関して、アマゾンジャパンの主観や法的根拠(契約、保証、不法行為等)を問わずに免責する旨の規定がありました。

 事業者にとって一方的に有利な規定は、消費者との関係では無効と解される可能性が高いですが、事業者間の取引においては、免責されうることを理解しながら契約している以上有効であると解されることが圧倒的に多かったです。

 しかしながら、判決では「合理的範囲に限定することなく、被告に故意又は重過失が認められる場合にまで一切免責されるとする点については、本件契約が大規模なオンラインストア・プラットフォームにおける不特定多数の出品者との間に適用される定型取引であり、画一的処理の要請が強いことを考慮しても、取引上の社会通念として許容される範囲を超え…少なくとも被告に故意又は重過失のある場合については、合意しなかったものとみなされる。」として、故意又は重過失のある場合には免責の効果を否定しています。

3.海外の事例

 同様の判断は海外でも示されており、例えば今年インドでも同じくアマゾン(アマゾンテクノロジーズ株式会社)が被告となる事件がありました。事案としては、「ビバリーヒルズポロクラブ」の商標権者が、アマゾンで商標権を侵害する商品が販売されているにもかかわらず、アマゾンが侵害品の販売を停止するための適切な措置を講じなかったなどと主張したもので、デリー高等裁判所はアマゾンに対し、3,878万ドルの損害賠償を命じるとともに、登録商標を使用する行為や使用を助長する行為を恒久的に差し止ることも命じました。

4.今後の展望

 大手プラットフォーマーに対しては「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」の適用もあり厳しい対応を強いられていますが、自分でルール(法律)を設定し、お金(税金)を徴収する、ある意味一つの国のような環境を設けている以上、秩序を乱す行為(警察犬)についても責任をもって行使しなければならないという思考過程は理解できるところです。

 プラットフォームにおいて問題が生じた場合、国内外を問わず、大手プラットフォーマーが責任を問われ、認められるケースはますます増えていくと予想されます。

 模倣品を販売された権利者は、上記①②の対応に加え、③プラットフォーマーに対する損害賠償請求の道も選択肢に入れて検討していくべきと考えます。


  1. そのほか、間接的ではありますが被疑侵害品が真正品でないことの広告や、被疑侵害品が国外から輸入されている場合には、水際差止を活用することも考えられます。後者についてはこちらをご確認ください。 ↩︎
  2. アマゾンでは、同一商品を販売する複数の出品者がいる場合、同一ページ内で販売されている(相乗り方式) ↩︎

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  • 本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。

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