コラム

COLUMN

未管理著作物裁定制度がスタートします
~昔の作品を利用したり、リバイバルなどをすることが容易になりました~

知的財産

2025.06.10

執筆者:弁護士・弁理士 田中雅敏

1.著作権者が不明、著作者の連絡先が不明、著作者に連絡が取れないなどの「オーファンワークス(孤児著作物)」の活用

 町おこしや自社商品、自社の歴史の紹介のために、古い写真や映像を使いたいのに、誰が著作権者かわからない、又は著作権者はわかるが今どこにいるかわからない、などの理由で、著作権者の許諾を得ることができず、結果として利用されない著作物が増えています。
 これは、「オーファンワークス(孤児著作物)」と呼ばれています。

 なぜ、このようなことが起こるのでしょうか?

 そもそも、現行の著作権法では、他人の著作物(写真や文章、絵、音楽など)を複製したり、改変して使用したり、インターネットに掲載したりするには、著作権者の許諾を得なければならないことになっています。

 ところで、著作権というのは、産業財産権と呼ばれる特許、実用新案、意匠、商標などと異なり、登録は必要なく、人間が著作物を「創作」した瞬間に発生し、自動的に国際条約により海外でも保護されることになります(無方式主義)。しかも、その存続期間は、自然人であればその死後70年と長期にわたっており、10年ごとに更新が必要な商標権などとは異なり、一度発生すると、非常に長期間にわたって存続することになります。さらに言えば、著作者がいつ死亡したかは、有名人などでない限り普通の人が調べるのは難しいので、結果として、いつ著作権が切れるのかも分からない、ということになります。このあたりも、産業財産権であれば、権利の始期と終期がはっきりと登録されていますので、ずいぶんと異なることになります。

 また、産業財産権であれば、権利者が登録手続きを行ったり、更新料を支払って更新したりしなければ、権利は消滅してしまいますが、著作権は、著作権者が何もしなくても(忘れていても)、その本人が死亡して70年後まで存続することになります。

 その結果、「著作者がわからない」、「著作者はわかるが連絡先が分からない」、「著作者の連絡先はわかるが、連絡しても返事がない」といったことが発生し、結果として、その利用ができないということになってしまいます。

 これでは、せっかくの著作物が死蔵化されてしまい、誰も使うことができず、文化の発展や情報の流通が阻害されてしまうことになります。

2.これまでの制度とその限界

 このような事態に対して、これまでの著作権法上も、著作権者不明等裁定制度が存在しており、「著作物の死蔵化」を防ぐ役割を果たしてきました。

 具体的には、著作権者が誰か不明、連絡先が不明、相続人が不明などの理由で許諾を得られない場合に、文化庁長官の裁定と通常使用料相当額の補償金の供託により適法利用を可能にする制度です。

 しかし、この制度は、手続きの煩雑さや、対応できる状況の範囲(例:権利者と連絡がとれないことの証明の困難さ)などから、十分に活用されてこなかったという課題がありました。特に、デジタル化された著作物の大量利用には対応しきれていない面がありました。

 そこで、令和5年5月17日に成立し、同月26日に公布された「著作権法の一部を改正する法律」により、「未管理著作物裁定制度」が創設されました。この法律は、公布から3年以内に政令で定める日から施行されるとされており、文化庁の発表によれば2026年度中に制度が開始される予定です。

3.新しく導入される「未管理著作物裁定制度」

 新しく導入される「未管理著作物裁定制度」では、「未管理著作物」について、登録確認機関に申請を行い、裁定された金額を支払うことで、その著作物を適法に利用できるという制度です。
 以下に、詳しく内容をご説明します。

(1) 対象となる「未管理著作物」とは?

A:対象となる著作物(未管理公表著作物等)

  • すでに世の中に公表・提供されている「公表された著作物」であること。  
  • 「相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物」(具体例として童謡など。公表されたかどうかは不明でも広く流布しているものも含まれます)。  
  • 「権利者による管理や意思表示がなく、利用許諾の可否が確認できないまま公開されている作品」。
    (具体例)
    a)具体的には、利用ルールや利用についての問い合わせ先の記載がなく、連絡先も明示されていないもの。
  • 利用ルールや問い合わせ先の記載はないが連絡先があり、利用について問い合わせてから14日間応答がなかったもの。(著作権者の意思確認を試みたが、確認ができなかった著作物のみが対象となります。)  
  • 著作者が当該著作物の出版その他の利用を廃絶しようとしていることが明らかでないこと 。  

B:対象とならない著作物

  • 「無断転載禁止」「非営利なら許諾不要で自由に利用OK」など、利用ルールが明記されているもの。
  • 「利用希望の方は〜へ」などと利用についての問い合わせ先が明記されており、利用について連絡したところ応答があったもの。
  • 著作権等管理事業者による集中管理がされているもの。
  • 著作物の周辺(CDのパッケージ、書籍の奥付、動画の概要欄など)や著作権者のHPなどに利用の可否や問い合わせ先が書いてある著作物。
  • 著作者がその著作物の出版その他の利用を廃絶しようとしていることが明らかな著作物。

(2) 制度の利用要件と手続

本制度を利用するためには、以下の5つの手順を経る必要があります。

  1. 事前に著作権者の意思確認のために「相当な努力」を行うこと
     利用したい著作物について、まず著作権者の所在や利用ルールを徹底的に調査します。作品に許諾に関する記載がないか確認し、判明している連絡先があればメールやメッセージ等で問い合わせを行います。一定期間(14日間程度)待っても権利者から応答が得られない場合や、連絡先自体が不明な場合に次のステップに進むことが可能となります 。
  2. 登録確認機関への申請
     裁定申請は、文化庁長官の登録を受けた「登録確認機関」という窓口機関に対して行います。申請書類には、利用したい著作物の詳細情報、利用の目的・方法、そして事前に行った権利者確認の措置の内容を具体的に記載し、必要な資料を提出します。
  3. 登録確認機関による審査と補償金算定
     登録確認機関は、提出された申請に基づき、その著作物が制度の対象要件に該当するか、事前に行った権利者探索の措置が「相当な努力」として十分とられているかを審査します。同時に、著作物の種類や利用内容に応じて適正な使用料相当額(補償金額)を算出します。
  4. 文化庁長官による裁定
     登録確認機関の審査結果と補償金算定を踏まえ、文化庁長官が最終的な裁定を行います。この裁定により、著作物の利用許諾期間(最大3年以内)と支払うべき補償金額が正式に決定されます。裁定が下りると、その裁定の事実と著作物の情報がインターネット等で公表されます。
  5. 補償金の支払いと利用開始
     利用希望者(申請者)は、文化庁長官が決定した補償金を「指定補償金管理機関」に支払います。支払いが確認されると、著作物の利用開始が許可されます。以後、裁定で認められた範囲(利用方法・期間)内であれば、その著作物を適法に利用することができます。

(3) 裁定を受けた場合の対象著作物の利用

 裁定を受けて補償金を支払った場合、決定された利用許諾期間内において、その著作物を利用することは、著作権侵害にはなりません。
 また、利用許諾期間経過後も、更新を行うことができます。

4.まとめ

 このように、新たに創設される「未管理著作物裁定制度」は、未管理著作物の利用を容易にし、これまで死蔵化されてきた著作物の利用を促進することになると考えられます。

 これまで、著作権の権利処理が難しかったこれらの古いコンテンツなどを、本制度を利用して再活用することで、新たなビジネスモデルの創出や、二次的著作物を含む新たな創作が行われることが期待されます。

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