コラム

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廃業か存続か? 今こそ考える事業承継

事業承継・相続・家族信託

2025.10.22

執筆者:弁護士・事業承継士 安田裕明

 2025 年現在、日本の中小企業は、経営者の高齢化と後継者不在という深刻な課題に直面しています。
 本稿をご覧になっている経営者の皆様の中にも、後継者問題に頭を悩ませている方がいらっしゃるかもしれません。本稿では、事業承継における選択肢と重要な取り組みの一つである株式承継について、そのポイントを解説します。

1 事業承継における選択肢

 事業承継の方法は、大きく分けて以下の3類型があります。

  1. 親族内承継:経営者の子どもや親族が後継者となり、事業を引き継ぐ類型です。
  2. 親族外承継:社内の役員や従業員が後継者となる類型です。
  3. 第三者への承継:M&A 等によって外部の第三者に事業を承継する類型です。

 例えば、後継者候補となる子どもが幼い頃から準備を整え、経営者としての資質を備えている場合には親族内承継が適しています。しかし、そうでない場合は、親族以外にも目を向け、社内外から最適な後継者を見つけることが重要です。特定の方法に固執せず、自社にとって最善の選択肢を検討する柔軟な姿勢が求められます。

2 株式承継のポイント

 事業承継では、事業資産や従業員など様々な要素を引き継ぎますが、その中でも経営権を握る自社株式の承継が最も重要です。

 株主には、株主総会での議決権がありますが、その過半数で役員選任や報酬決定が可能になり、3 分の2 以上で定款変更等の重要事項を決定できます。後継者に株式を集中させることが必要ですが、一方で、特定の後継者に株式を集中させると贈与税や相続税が重くのしかかるリスクがあります。

 そのため、株式の承継にあたっては、そのような税負担をなるべく回避しながら、後継者に株式を集中させることが重要なポイントとなります。

 このような税負担への対策としては、年間110 万円まで非課税となる贈与枠を活用することで徐々に株式を移転させる方法や累計2500 万円まで非課税で贈与できる相続時精算課税制度を利用する方法も考えられますが、本日現在においては事業承継税制の特例措置を活用することが有効です。この特例措置は、一定の条件の下で、中小企業の後継者が先代経営者から非上場株式等を相続又は贈与で取得する際に発生する相続税・贈与税の納税を猶予又は最終的に免除する制度です。

 但し、この制度を利用するためには、令和8 年3 月31 日までに特例承継計画を都道府県知事に提出しなければならず、制度自体そのものについても令和9 年12 月31 日(個人事業主を対象とした個人版事業承継税制は令和10年12月31 日)までが適用期限とされています。

3 最後に

 多くの経営者は日々の業務に追われたり、「まだ元気だから」と考えたりして事業承継を先送りしがちです。しかし、準備不足のまま万が一の事態が起これば、多額の相続税や株式分散による経営不安定化、さらには廃業リスクも生じかねません。

 上記のような制度を踏まえると、今こそ事業承継への取り組みを始める絶好のタイミングです。後継者候補がいない場合や、後継者候補はいるもののその進め方にお悩みがある方は、是非お気軽にご相談いただければと思います。

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  • 本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。

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