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コラム

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2021年の中国11・11セールの異変 ~中国EC市場の今後の展望~

企業経営・販売・広告

2021.11.12

執筆者:中国律師(弁護士)姚 綺、日本弁護士 田中 雅敏

 中国のEC市場の巨大さは、毎年報道されており、日本企業も、越境ECも含め、化粧品や健康食品などを、アリババやJD(ジンドン)のプラットフォームサイトなどで販売し、多く売り上げを伸ばしています。

 その中でも、年間で最大のセールである11・11セールに、異変が起きています。

【中国11・11セールに大きな異変】

 中国では、11月11日は「独身の日」ですが、近年は、皆さんもご存じのとおり、「セールの日」として広く知られており、毎年、11・11のセール日には、ECサイトの売上総額が一日でいくらになった、といったニュースがあふれていました。ちなみに、昨年の11・11セールでは、期間中で、アリババグループと京東集団の合計で7697億元の売上になっています。これは、1元15.6円換算で、12兆円を超える金額となります。ちなみに、2020年の楽天グループの一年間の売上合計は1兆4500億円ですので、その10倍を、11・11のセール期間中だけで売ってしまう中国EC市場のすごさは、目を見張るものがあります。

 それでは、今年の11・11セールもさぞや盛況だろうと思いきや、今年は大きな異変が起きています。

 そもそも、今年は、この恒例となっている「〇〇億元突破」といった速報そのものがなくなりました。その代わりに、中国EC大手のアリババは「グリーン会場」という特設ページを作り、大きくPRしています。これは中国政府の炭素排出削減方針に応じる企画だと言われています。

 このように、今年の11・11はとにかく例年より静かです。簡単ですが、その原因を見てみましょう。

【政府によるECに対する違法行為の取り締まりの強化】

 アリババだけでなく、各ECプラットフォームはいずれも、流通金額の速報をほとんど出しませんでした。これは、高額な金額で自社の実績をアピールするという例年の姿勢と異なり、各EC大手は、派手に見えることを躊躇しているように見えます。

 実は、今年4月に、アリババは独占禁止法違反したとして、市場監督総局より182.28億人民元(約2,916.48億円)の行政処罰を課されています。EC市場の急激な発展に伴い、コンプライアンスに関する問題点もクローズアップされるようになり、政府としても、厳しく取り締まりを行う姿勢を見せています。このような状況では、各ECが、とりわけ目立つ行為を避けることも、十分理解ができるところです。

【制度自体の限界】

 国による取締りだけではなく、11・11セールのルール設定の問題もあると思われます。このセールが爆買を呼んだのは、端的に言うと、その安さです。最初に、ECプラットフォームの提案で、各出店者は商品の価格を非常に安めに設定したため、消費者はその日にだけ、非常に安い価格で商品を買えました。これが原因となって、一気に人気を呼び、非常に有名なセールの日となったのです。しかし、ここ数年を経て、11・11で買った商品の品質が悪いといった問題点や、価格を事前に引き上げた上でセール日に「値引き」をする結果、実は通常の価格と変わらないといった二重価格の問題がクローズアップされました。また、この日に注文が殺到するため、その後の物流が大きく混乱し、商品の到着が大幅に遅れると言った悪影響も出るようになりました。さらに、値引きのルールがますます複雑になってきており、消費者保護の観点から問題があるのではないかといった批判や苦情が大きく取り上げられるようになりました。

 このような事情から、11・11セール自体が、消費者にとってそれほど魅力的ではないものになってきています。

【ライブコマースの普及】

 中国のEC市場では、天猫やJD.comといった従来のECプラットフォームで商品を販売するだけでなく、近年は、新しい販促方法として、「ライブコマース(live commerce)」か「Live配信型ネット販売」とよばれる販売方法が急速に普及してきました。これは、人気のKOLや芸能人等がLIVEで商品を体験しつつこれを配信し、その商品の特徴を説明することで購買意欲を呼び出し、そのLIVEサイトで直接商品を購入してもらう、という手法です。煩雑な11・11値引きルールに対して、簡単で安い価格で購入でき、しかも商品についてのしっかりした説明を受けられたり、効果的な使い方を知ることもできるため、急速に広まってきています。

 これら以外にも、11・11セールの盛況を見て、類似のセールが開催されるようになってきており、今は12・12セールや、6・18セールなど、こういったセール日が増えてきています

 したがって、消費者の選択肢が多様化し、また消費者ニーズに合ったプラットフォームも多様化した結果、無理に11・11セールで買わなければならないわけではないという考えが広がってきており、それが、今年の静かな11・11セールにつながったと考えられます。

【まとめ】

 11・11セールの存在感は、確かに以前に比べて薄くなってきていますが、これは、上記のように、自然な流れと言えます。しかし、中国のEC市場そのものについては、依然消費意欲は旺盛ですし、全体としては、さらに成長するものと思われます。実際、私たちが消費者として中国で商品を購入するにあたっても、実店舗で買うよりECのほうが安くて便利だという考えは、広く共有されていると言えます。特に若い年齢層の消費者は、こうした考えが完全に主流となっています。

 北京商報の報道によれば、11月1日から11日0時45分まで、382ブランドのTMALLにおける売上は1億元を超えています。11月10日20時から、京東における家電製品の売上は5分間で20億元を突破し、10分間以内に、各種携帯の売上は同期の4倍となり、そのうちiPhoneの売り上げはなんと2秒で1億を超えています。

 また、最終的に今年の11・11セールの売り上げは、アリババグループについては、期間中の商品取扱額が11日間で5403億元(約9兆6400億円)と、前年の4982億元を上回り過去最高になったとのことです。

 こうした事実を見ても、やはり中国におけるEC市場は、今後もますます成長し、大きくなっていくと思われます。ただ、これまでのように、11・11セールに大きく注目されるということではなく、消費者は、以前に比べてより冷静に品質等を考慮の上、商品を購入する傾向が顕著となっており、「賢い消費者」となっていると言えます。

 中国政府も、今後、さらにこうした新しい形式による販売手法について、法規制を整備し、厳格に実施することは確実です。従って、ECを経由して商品を販売する企業としては、ますます、しっかりとしたコンプライアンス意識を持つことが重要となります。

 特に、今年施行された、中国の個人情報保護法も、無視できない要素です。こうした点に配慮して、しっかりと準備した企業が、今後の中国のEC市場をつかむことができると言えるでしょう。

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