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コラム

COLUMN

令和元年会社法改正

一般企業法務等

2022.01.31

執筆者:弁護士 髙崎慎太郎

 令和元年12月、会社法の一部を改正する法律が成立、公布されました。この改正法は、そのほとんどが令和3年3月1日より施行されています。また、株主総会資料の電子提供制度等についても、令和4年中の施行が予定されています。今回の改正は、平成26年の改正以来の本格的な改正であり、株主総会等の実務に少なくない影響を与えるものと思われます。

 そこで、本稿では、今回の改正の重要な点を中心に、その概要をご紹介します。

1 株主総会資料の電子提供制度

 株主総会参考書類等の株主総会資料の株主への提供については、これまでも、株主の個別の承諾を得て行う電子提供の制度や、定款の定めに基づき株主総会資料の一部についてインターネットのウェブサイトに掲載するウェブ開示の制度が存在していました。今回の改正では、定款の定めにより、原則として株主総会資料の全部についてインターネットのウェブサイトに掲載し、株主に対しては、株主総会の日時場所や目的事項のほか、当該ウェブサイトのアドレス等、最低限の情報を記載した書面による招集通知をすれば足りるものとする、新たな電子提供制度が導入されました。

 本制度により、会社としては、印刷や郵送の費用を削減できる等の効果を期待できます。もっとも、ウェブサイトにアクセスすることが困難な株主のために、会社に対し書面による株主総会資料の提供を請求する権利が保障されているため、この請求があった場合には当該株主に対する書面での送付がこれまでどおり求められることになります。

 上場会社には本制度の導入が義務付けられます。他方、上場会社でない会社が本制度を導入するかは任意ですが、導入する場合には、株主総会の特別決議により本制度をとるとの定款変更を行って、その旨の登記をする必要があります。

2 株主提案権の濫用的行使の制限

 株主には株主総会において決議事項を提案できる権利(株主提案権)が与えられていますが、一人の株主から膨大な議案が提出されるなどの場合があり、裁判において株主権の濫用と判断された事例も存在します。

 今回の改正では、株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置として、株主が同一の株主総会において提出することのできる議案の数を10に制限することとされました。なお、議案の数が制限されるのはあくまで議案要領通知請求権(株主が、提案しようとする議案を予め招集通知に記載することを請求する権利)についてのみであり、議題の提案権や、議場における動議としての議案提案権については、数の制限は設けられていません。また、本改正は取締役会設置会社にのみ適用されます。

3 取締役の報酬等に関する規律の見直し

(1) 報酬等の決定方針の決定 

 これまで、指名委員会等設置会社については、報酬等の決定方針を決定しなければならないとされていました。今回の改正により、監査役会設置会社のうち公開会社かつ大会社であって発行する株式について有価証券報告書の提出義務を負う会社、及び監査等委員会設置会社についても、取締役会が、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針として法務省令で定める事項を決定しなければならないこととされました。なお、この規定は定款または株主総会決議で個人別の報酬等を具体的に定めている場合には適用されません。

(2) 事業報告の記載事項の拡充

 役員の報酬等については、事業報告における開示の内容が不十分であり、これを充実させるべきであるとの指摘がなされてきました。

 今回の改正では、(1)に関連するものとして、取締役会は、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針にかかる事項を事業報告に記載する必要があるほか、金銭報酬の限度額を含む株主総会決議の内容、取締役会から委任を受けた取締役等が取締役の個人別の報酬等を決定した場合に関する事項等が、事業報告の記載事項として追加されました。なお、改正前と同様、個人別の報酬額自体の開示は義務付けられていません。

(3) その他

 取締役の報酬として株式または新株予約権を付与する場合に、株主総会においてその上限等を決議すべきことや、上場会社においては、取締役が払込みをすることなく報酬として株式または新株予約権を発行することが可能になることなどが規定されました。

4 会社補償やD&O保険に関する規定の新設

 役員等が職務の執行に関して責任追及を受けるなどして生じた費用等を会社が補償すること(会社補償)について新たに規定が設けられ、会社補償を行うために必要な手続や情報開示の義務等が規定されました。同様に、会社役員賠償責任保険(D&O保険)についても新たに規定が設けられ、必要な手続等が定められました。

5 社外取締役の導入

 今回の改正で、上場会社等(監査役会設置会社のうち公開会社かつ大会社であって、発行する株式について有価証券報告書の提出義務を負う会社)について、社外取締役の設置が義務付けられることになりました。もっとも、上場会社についてはほとんどの会社がすでに社外取締役を設置しているため、実務への影響は限定的と思われます。

 また、社外取締役はその要件として、会社または子会社の業務を執行しないことが求められますが、取締役会から委託された業務を執行した場合でも社外性を失わないケースについての規定が設けられました。

6 終わりに

 上記のほか、今回の改正では、社債管理補助者制度の創設等、社債の管理に関する規律の見直し、また、新たな企業再編手法として、株式会社が他の株式会社を子会社化する場合に自社の株式を他の株式会社の株主に交付することができる、株式交付制度の創設などが行われました。

 当事務所では、上場企業から中小企業まで、会社法関係法務を幅広く取り扱っております。今回の改正への対応に限らず、ぜひお気軽にご相談ください。

(2021年7月執筆)

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