• 明倫国際法律事務所

コラム

COLUMN

プロバイダ責任制限法の改正

コンプライアンス・内部統制

2022.11.02

執筆者:弁護士 髙崎 慎太郎

1 はじめに

 2021 年4 月21 日、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(通称・プロバイダ責任制限法)の一部を改正する法律が成立しました。インターネット上での権利侵害(誹謗中傷、プライバシー侵害、著作権侵害など)が後を絶たない中、より円滑な被害者救済を図るため、以下にご紹介する点を中心に改正がなされています。
 なお、改正法は2022 年10 月1 日に施行されますが、改正法の施行前に生じた権利侵害についても、改正後の手続を利用することが可能とされています。

2 発信者情報開示命令の制度

 改正法により、裁判所の非訟手続で発信者情報の開示を求めることができる、発信者情報開示命令の制度が創設されました。
 インターネット上で権利を侵害された方は、まず、①ウェブサイト管理者等のコンテンツプロバイダを相手方として、裁判所に対し、IP アドレス等の開示命令・提供命令の申立てを行います。この提供命令が出されると、コンテンツプロバイダから、通信事業者等のアクセスプロバイダの名称が提供されます。次に、②そのアクセスプロバイダを相手方として、裁判所に対し、匿名投稿者の住所・氏名の開示命令・通信ログの消去禁止命令の申立てを行います。この申立てに伴って、コンテンツプロバイダからアクセスプロバイダに対し、IP アドレス等の情報が提供され、裁判所からアクセスプロバイダに対し
開示命令が出されると、アクセスプロバイダにおいて当該情報を基に匿名投稿者を特定した上、アクセスプロバイダから、住所・氏名が開示されることになります。
 権利侵害を受けた方は、このように住所・氏名を開示されることで、当該権利侵害について、民事上の損害賠償請求や刑事告訴等の措置を講じることができるようになります。なお、通信事業者等のアクセスプロバイダは利用者の通信ログを一定期間で削除するのが通例であるため、上記の消去禁止命令の申立てには、匿名投稿者を特定しようと動いている間に、違法な投稿に関する通信情報が削除されてしまうことを防ぐ役割があります。
 現行法下の手続と異なり、上記のコンテンツプロバイダに対する申立てとアクセスプロバイダに対する申立ては同じ裁判体で併合して審理されることが予定されているため、改正法の下では、より迅速・円滑な発信者情報の開示ひいては匿名投稿者の特定が期待できます。

3 ログイン時情報の開示

 現行法は、投稿時のIP アドレス等を特定することを前提とした制度となっているため、Twitter 等のSNS のように、ウェブサイト管理者等がログイン時のIP アドレス等しか保有していないケースには適切に対応できないという問題がありました。
 改正法では、これに対応するため、新たに、違法な投稿をした際のウェブサイトへのログイン・ログアウトを「侵害関連通信」として把握した上で、ログイン時のIP アドレスやタイムスタンプ等の侵害関連通信に関する情報(「特定発信者情報」といいます。)の開示を請求できるようになりました。

4 おわりに

 インターネット上での権利侵害は近年ますます増加しており、企業経営に大きな影響を与えることも少なくありません。また、会社のみならず特定の従業員をターゲットとした投稿も多く見られるところであり、従業員が安心して業務を行えるためにも、インターネット上での権利侵害に適切に対処することは、現代の企業にとって重要な課題です。
 当事務所では、個人・法人を問わず、インターネット上での名誉毀損、誹謗中傷、プライバシー侵害や著作権侵害等の権利侵害への対応について、投稿者の特定からその後の損害賠償請求・刑事告訴等まで、一貫してご対応可能なサービスをご用意しております。お困りの際は、ぜひご相談ください。

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