コラム

COLUMN

子会社管理のすすめ(海外子会社を含む)

コンプライアンス・内部統制

2025.08.04

執筆者:弁護士 森進吾

 企業グループ運営における難しい問題として、子会社における不祥事や重大な法令違反に対して、親会社の取締役はどのような法的責任を負うか、という問題があります。

 一つの考え方として、親会社と子会社は別個独立の法人であって、親会社の取締役は、特段の事情がない限り、子会社の取締役の業務執行の結果、子会社に損害が生じ、さらに親会社に損害を与えた場合であっても、直ちに親会社(の株主)に対して責任を負うものではないという考え方があります(野村證券事件、東京地判平成13 年1 月25 日)。

 他方で、親会社の資産としての子会社株式の価値を維持するために、親会社の取締役は、必要・適切な手段を講じて子会社管理を行う義務を負い、株主として採ることのできる手段を適切に用いて子会社管理を行わない場合には、善管注意義務違反を問われ得るという考え方もあります(坂本三郎編著「一問一答 平成 26 年改正会社法〔第 2 版〕」240 頁)。

 「グルグル回し取引」と呼ばれる循環取引類似の取引に関して、親会社も取引当事者になっていたという特殊な事情はありますが、不良在庫を抱えて経営破綻した子会社に関する責任として、子会社に対する調査義務を怠ったことを根拠に、親会社の取締役の善管注意義務違反を認めた裁判例もあります(福岡魚市場事件、福岡高判平成24 年4 月13 日)。

 また、経済産業省が2019年6月に公表した、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」では、『親会社の取締役会は、グループ全体の内部統制システムの構築に関する基本方針を決定することが求められており、業務執行の中でその構築・運用が適切に行われているかを監視・監督する責務を負っている』としたうえで、『ただし、具体的な内部統制システムの構築・運用の監督については、 通常、親会社の取締役に一定の裁量が認められ』るとしています。

 このような近年の議論の状況からすれば、子会社の運営を子会社の取締役に丸投げすることは許されず、各社の事業内容等に応じつつ、親会社の取締役会では、子会社を適切に管理するための方針を協議し、子会社管理の担当取締役等の責任者を決定すべきであるといえます。

 特に、地理的に遠く、法律を含む制度・文化の違いから、海外子会社の管理は実質的に機能していないケースも少なくないといわれています。上場会社では、グループ全体の決算へ影響を与えるような海外子会社の不祥事について、第三者調査委員会を通じた報告書を作成することがありますが、その報告書の中で「日本本社からの管理監督が脆弱である」ことが現地で不正を生じさせる機会を与えることになったとの指摘を受けているケースも実際に存在します。

 自社グループのリソースで対応が困難な場合には、適宜、管理業務をアウトソーシングすることも考えられます。当事務所では、中国、ベトナムやインドをはじめ、親会社による海外子会社の管理監督についてもサポートする体制を整えております。

 子会社株式は自社の資産であることを改めて認識し、海外子会社を含めた子会社管理の体制を見直してみてはいかがでしょうか。

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